15 September 2004

アメリカ(仮)の犬神家の人々

ドッグヴィルの告白
ニコール・キッドマン
ジェネオン エンタテインメント 2004-07-23


by G-Tools


ドッグヴィル』が興味深かったので劇場で観たかったんだけど気付いたら終わってたのでDVDで追っかけ。尺52分。オンエア前提だったものだろうか?
以下、内容に触れているので気になる人は観てからどうぞ。



「懺悔室」はバラエティ番組で見なれた仕掛けだがこの映画にとってはうってつけ。しかしカメラがあることは明示されており公開されることは俳優たちにも知らされていたはず。コメントは一見なまなましいものもあったけど、演出されている(監督者がいるか、演じられている)かもしれないという疑いがあるうえ、撮影が進む時系列を曲げずに編集されているようには思えない(編集者の恣意によって発言が挿入されている)。リップサービスと演出サービスも含まれているとして見たほうがいいと思った。

俳優たちは口々にナーバスなことを口にする。曰く「監督は心を許していない」「疲れた」「おばあちゃんに会いたい」「空が見たい」「監督は頭がおかしい」…。だがトリアーが実際俳優にプレッシャーを与えているような光景はそれほど描写されない。トリアーのダメ出し(立ち位置に対する指示)でトム・エディソン・ジュニアが不機嫌を露わにするシーンこそあったが、一番キツいコメントを発しているベン・ギャザラを演出している光景さえ撮られていない。スタジオに隔離されすぐには理解しにくい芝居をさせられているストレスしか伝わってこない。それはトリアーが「狂っている」からであるという理由にはならないと思う。

むしろトリアーは、大御所俳優たちに囲まれ緊張し、自らのビジョンの構築に悩む繊細な人物として撮られている。スタジオから自宅(?)に帰る車内でカメラマンに愚痴をこぼしたり、服用している抗不安剤(!)のメーカーを絶賛したりする。まあ少し神経症ぎみかも知れないが、決して暴君のイメージはない。ニコール・キッドマンに「性的描写には気をつけて」とたしなめられ、演出を変える光景まで撮られている。ひたすら悩んでいる「天才ではない」人物に見える。これは監督が主役のドキュメンタリーだった。

スキャンダラスな部分と、よくもまあここまで撮らせたなという「晒し」の部分とが丁寧に編集されて『ドッグヴィル』にふさわしいメイキングだと思うが、トリアー監督の描写がよくできているぶん「懺悔室」の仕掛けはちょっとあざとく感じられた。映像のスタイルもカッコいいけど、必ずしも焦点が絞りきれているとは思えないし。まああれがないと単体で上映できない地味なものになってしまうのだろうが。

すべてを室内で撮影することによって俳優たちを神経症すれすれにまで追い込むというのは監督の想定した作戦ではなかったように見えた。監督自らも追い込まれてしまっているし。こうして完成した『ドッグヴィル』が見れたということはトリアーという人の意志の強さゆえだと思うが、書き割りのセットで撮るというビジョン、自らが設定した足枷のおかげでドツボにはまっているトリアーが見れて、不謹慎だが自分は安心した。

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