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晴れた家、その他の短編(下)

もう何も見えなくなっていました。前方から去来する光。まぶしい。新潟弁でかがっぺぇ。あ、それは単純にスポットライト的な何かだと思うのですが、客席は8割がたの入り。プロジェクターを設置するために少しの座席がデッドになっていますが、その他はほぼ埋まっています。

ぐるりと目を遣ると、まず親類縁者が目に入るのはカルマ的な何か、あるいは宣伝効果だと思うのですが、その他の初めてお会いする観客のみなさん、想定よりもなぜだか年齢層が高かったのです。自分は何回かこのような場を経験しているのですが、たいていは若い人、何らかの形で(自主)映画制作に関わっていそうな若い人ばかりだったものですから、少し勝手が異なるのかもしれない、と思いました。例えば「自主映画」「個人映画」「DVXは24pでなんちゃってフィルム画質」「けつかっちん状態でバーターしたつもりだったんだけどペンディングされてテンパって」など、最後の一個は冗談にしても、だいたいそのようなキーワードがなんとなく通じるだろうという環境で喋っていたものですから。とりあえず共通言語の獲得から始めなければならない、と思いました。

前述のように、自分は畏まった訊かれ方をすると記憶障害を起こすもので、あんまり憶えていないのですが、U木さんは確か「この作品をつくった経緯」から質問をはじめられたと思います。自分はなるべく率直に、いつもより多めの説明語を交え(そのせいで話がまわりくどくなり)、沈黙を埋めるかのように喋りました。実際埋まっていたかはわかりませんが、時たまうなづきや笑いなどが起こり、少なくとも完全に滑ってはいないということが自分にも察知されました。
一通りの話を終えたころ、U木さんは突然、「自作の撮影時に階下のアイルランド人がうるさかったのですが…」という質問をされました。それは一体、質問だったのか体験談だったのか、今になっては知る由もないのですが、当時の自分はとにかく「沈黙を埋めなければ」ということで頭がいっぱいだったものですから、

ギャラリーがうるさい→スタッフの誰かを遣ってその隙に撮影→そういうことってあるよね→実は自分もある映画の撮影時に通報されたことがあって…

などと、親類縁者環視の中、別にいまカミングアウトしなくてもいいことを喋ってしまいました。『晴れた家』とは全く関係なく、ぶっちゃけ後悔しましたが後の祭りです。しかし、自虐ネタが功を奏したのか、少しの笑いをとって、なんとかその話題は無事成仏。南無。と思っていました。

質疑応答では、メイキング撮影における一般的な疑問などが発せられました。自分はなるべく真摯に答え、いつか新潟でフィクションを撮りたいということなども交えて発言し、トークの場は終了しました。プレゼントとして純米酒をいただきました。ありがとうございます。

喋りまくって真っ白になった自分ですが、今日はさらなる企画がありました。自分の短編『OPAAI』と『新しい人』の上映です。特に『OPAAI』は完成してから本邦初公開。大きなスクリーンで観るのは自分も初めてなものですから、上映開始と同時に劇場後ろから忍び込んでみせてもらいました。音のバランスや色調など、イメージ通りにいっているという技術的なことで安心していると、劇場から出て行くお客さんの影が! 後で聞いた話によると、その人は親類縁者の一人でした。手持ちカメラで延々と揺れている画面によって、酔ってしまったそうです。申し訳ない。次の作品の参考にさせていただきます。
短編の評判は上々だったようです。前日に解説のビラを作っていって本当に良かった。『OPAAI』のド頭のハッタリにはウケてもらいましたし、ラストには「これで終わりかよ!」という突っ込みもいただきました。若年層には『OPAAI』が、シニア層には『新しい人』が好評だったらしいです。

その後はもう作り手も観客もいっしょくたになって会は終了するのですが、自分は緊張から一気に解き放たれた開放感で、欠乏した栄養素・ニコチンを補給すべく、喫煙所に行って自分の芸術の師匠、長谷川徹先生とくっちゃべっていました。長谷川師があまりに怪しい風貌なせいか、遠巻きに空気をうかがっていた方、すみません。怪しいのはオレのせいじゃないです。

*****

どうあがいても一抹の寂しさを感じるこの後、問題の打ち上げに続くのですが、ぼくはあんまり気にしていません。自分とかオレとかぼくとか人称が変わりまくっているのは動揺のせいではなく仕様です。車で行くのを控えれば良かったのです。あるいは通報か張り紙かどちらかにしてもらえばよかったのです。両方いくことはないじゃないか、と。なにも怒鳴り込むことはないじゃないか。と。
シンク』上映時の『宗家の三姉妹』事件のエピソードも聞けましたし、ぶりの刺身とじゃがバターが美味かった。なにより上映は大成功だった。それがこの夏の思い出です。シネ・ウインドの皆様、並びに関係各位の皆様、ありがとうございました。自分はいずれ自分の映画でこの場に戻ってきたいです。映画の話をしようじゃないですか。夜通し語ろうじゃないですか…。

[info]
■取材していただいた雑誌:Week!
次号に本上映会の模様が掲載されるそうです。また、公式サイトでは村松の短い映像メッセージが配信されるとのこと。
■今週末8/6(土)、シネ・ウインドにて「戦中派・岡本喜八」と題してのオールナイト上映。『日本のいちばん長い日』『江分利満氏の優雅な生活』『肉弾』。企画者は車の…ぶるる!口が裂けても言えません!

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