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晴れた家、その他の短編(中)

ファンタグレープを買って。

ファンタグレープといえば、ウチの祖父の大好物でしたが、新潟入りした際、変わったファンタグレープ、およびスプライト・コカコーラを見かけました。祖父がわざわざ酒屋から取り寄せていた250ml入りの旧いかたちの瓶。あの形が復刻し、さらにコカコーラ印のヨーヨーが付属しているという類い稀なるナイス企画なのですが、東京でも売られていたのでしょうか。自分は1ml=1円という高額商品ながら、5本ほど買ってしまいました。ダブったヨーヨーは同居人の甥&姪にあげたのですが、ピンとこなかったようでした。

それはさておきファンタを飲もうかな、と思っていると、そうそう、車のことを思い出しました。先ほど停めた駐車場は高額なので、打ち上げ会場になる居酒屋に置かせてもらいましょう、と取りはからってもらっていたのでした。願ってもないことなので、ボランティアスタッフの若者に連れられて車を移動しました。かれは若いながらも岡本喜八の特集上映を企画するなどのやり手です。『大誘拐』とか実は好きな自分はそのことを言うと、意見が一致し、嬉しくなって古い映画の著作権のことなどを話していたのであんまし車のことには気がまわりませんでした。

もういちど控え室に戻ったのは自分と、U木さんというトークの司会進行の方でした。「にいがた映画塾」の元塾生さんだそうです。にいがた映画塾といえば、全国でも珍しい有志による映画ワークショップ。映画『白痴』の撮影の際、手塚眞さんや古澤敏文さん、およびシネ・ウインドの尽力によって立ち上がり、そのまま現在に至っているとのこと。素晴らしい継続力です。自分にないものなので素直に尊敬していると、U木さんは「打ち合わせを…」とのことでした。そうそう、ここは新潟県の映画事情に思いを馳せる場ではなく、上映&トークの場なのです。とはいえ自分、苦手なものが三つあって、それは散髪と点滴とトークなものですから、困窮したあげく、今までの少ない経験の中からネタを何とか絞り出しました。後はノリで。流れで。困ったら質問タイム。

そうこうするうちに、侘美さん作曲&演奏によるセンチメンタルなピアニカが流れ出し、山本くんa.k.a.班長によるナレーションが聞こえてきました。『晴れた家』上映が始まったのです。自分はお客さんの入りが気になって映写室の窓から覗かせてもらうことにしました。スクリーンの反映でシルエットになっているお客さんの後頭部。かなり入っています。それに、プロジェクターがスクリーンに近いせいもあってか、映像が今まで観た『晴れた家』の中でもトップクラスのキレイさです。映写室で支配人のH本さんと、ビデオっ子フィルムっ子の話をしました。自分は両者の過渡期にいるということ。映写室で自作を眺めながら映画の話をする、なんて特権的な時間だろうと思いました。

映写室での時間は意外にも速く過ぎ、映画は終了しました。しばしの休憩のあと、いよいよトークです。ティーチイン、という言葉がありますが、違いは何なのでしょうか。自分はビデオカメラを持ってきていたことを思い出し、客席にいた同居人にそれを渡し無言で「撮って」というサインを出すと一回引っ込みました。
そのままそこにいてもいいような気もしましたが、名前を呼ばれて立ち上がるというのもどうも格好がつきません。それに、客席にはけっこうな数の顔見知りがいるのです。「最近何してるの?」的な会話で貴重な時間を潰すわけにもいきません。最後の一服をつけて落ち着いている間に、入場の段取りのお話がI上さんよりありました。U木さんと自分、どちらが先に入ってどちらが上手(かみて)で下手(しもて)で、という話です。確かその時は「村松が後から入って上手に座る」ということに決まっていたと思います。

しんとしているエントランス付近から忍び足で劇場に向かいます。別に忍ぶ必要もないとも思うのですが、何となく忍んでしまうのです。歳のせいでしょうか。
ドアから垣間見えるけっこうな数のお客さんたち。心持ち、首がこちらを向いているように思えます。みんなそんなに一斉に首を曲げたら、戻す時に大変じゃないのだろうか。一斉に戻すつもりなのだろうか。などと思っているうちに、I上さんが自分たちの名前を呼んでくれました。ついに入場です。
なるべく背筋を伸ばしながら、しかし客席の方は見ず(あがるので)目的のステージ上手に向かいます。が! なぜか上手についているのはU木さんではないですか! 自分は、いったいどこで段取りを聞き間違えたのでしょうか…。激動する心臓を抑えながら、できるだけ何食わぬ顔で下手についた自分を待ち受けていたものは…。

続く!!

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