07 September 2004

メイキングのこと

何年か前に仕事で撮った某映画のメイキングがあって、それは構成して編集して完成まで込みで依頼されたものだったのだけど、理由を知らされぬまま実質ボツになったことがある。つまり撮影だけやらされて放り出されたということ。初めから撮影のみに限定されて依頼されたのならまだ話はわかるのだが、素材の使いどころを抜きタイムコードの一覧表まで作らせておいて、しばらく連絡がないなと思っていたらいきなりDVDとかに収録されているのだから驚く。全然知らない人が編集したのだ。しかもそのことについて自分に連絡なし。
そういうことはこの業界ではよくあることなのかもしれず、すっかりメイキングという仕事に懐疑的になってしまって、実際『晴れた家』の仕事を受ける時最後の最後まで疑った。製作陣の方々、あーだこーだ言ってすいませんでした。そういう事情があるのです。

某映画の現場では、頭の中でいろいろ戦略を立てながらビデオを回していたので、クローズアップを多用した画しか撮ってなかった。キャストインタビューの時もあえて同じ構図で撮った。自分の頭の中では編集の青写真ができていたのであり、つまり、自分以外の人には編集不能であるとさえ思われた。編集まで込みで依頼されているのだから当然のことだ。なのでDVD特典に収録されたことを知って、まあ無難な所を使っているのだろうと思った。そして、腹が立つのでそのDVDを見ることはしなかった。そのまま忘れていた。

で数年後。昨夜ようやくその気になって、ていうかビデオ屋の棚で目に付いたので、件のDVDをレンタルしてきた。本編はスクリーンで2回ほど観ている(やりきれぬ思いで)ので、いきなりその特典映像とやらを再生。

メイキングは、念のため押さえておいた無難な状況説明ショットで構成されていた。編集した誰かはさぞかし困っただろう。それ以外のショットは全部手持ち揺れまくりのクローズアップなんだから。想像通りの出来で…と思った矢先。主演女優たちのクランクアップのシーン。カメラは花束を受け取りちょっと涙ぐんでいる女優に寄る。ズームではなく歩いて寄る。女優はちょっと困ってカメラを花束で隠す。

自分が女優にそこまで近付ける関係性を築くのに二週間かかったのだ。二週間現場にいた自分でなければ撮れない画のはずだ。素材を受け取り「編集しといてね」と依頼されたエディター氏はこの画をただ「おいしい」と思って使ったのだろう。ごくあっさりと。

インタビューにしてもそうだ。キャストたちが話しているのは監督がいかに有能であり現場がいかに楽しかったということだが(もちろん異存はない)、それをもう事務的に、喋った内容のみに着目し繋いでいる。規定の尺も配給の意向もあろうが、自分からすれば「やっつけ」にしか見えない。撮り手の意図をまるっきり無視している。

キャストの「こんな風に話す表情」を撮れるのは自分だけではないのかと思う。自分の能力を過大評価しているという意味合いではない。カメラマン兼インタビュアー個人と、俳優個人個人との関係性が大前提の表情であり喋り方ではないのか。それは実際現場に行きスタッフやキャストと同じ空気を共有した者同士しか醸し出せない関係性だ。

ほとんどのメイキングは、適当に選出された誰かが回したビデオをディレクター職の人の責任において編集されるが、この時ディレクターが現場に行っていないということもある。視聴者の興味はメイキングディレクターとキャスト・スタッフの関係性にあるわけではないし、編集で本当にどうにでもなるので、まあ普通にメイキングビデオは成立する。そして、それがメイキングというものだ。

だが、自分はそんなもの嫌だ。自分が築いた関係性が写り込んでいる映像を、まったく知らない誰か(名前さえ出していない)の手によって編集され操作されるのだけはごめんだ。メイキングは現場で撮影した者、あるいは同行して監督した者の名において編集・構成されるべきであると思う。そうでなければまったく撮りに行く意味がない。仮にも「ドキュメンタリー」という言葉を冠するならば絶対にそうするべきだ。

件のDVDを見ていてやおら腹が立った直後、すぐに悲しくなってしまった。意地でも編集させてもらうべきだった。

別の映画のメイキング『晴れた家』では、自分のメイキングに対する考えがもうわかりやすいくらい出ている。つまり普通のメイキングビデオではなく、観客の興味の対象とは若干ずれがあるかも知れない。よくぞこんな作品をつくらせてくれたものだと思うが、『晴れた家』が完成し(たぶん)公開されることでメイキングディレクターという「役職」が見直される一助になればと思う。

それにしてももう久しぶりに腹が立ったのでたくさん書いてしまった。

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